できたばかりのオーケストラへ入団するために、東京から楽器を抱えた母が札幌へやってきてから60年。演奏会が忙しく、留守番ばかりの私の心細さを支えてくれたのが、北海道の大自然と本でした。 学校から帰ってくると私の過ごす場所は図書館か、森や川。幼い私にとって、大自然も図書館も、どんなに奥へ奥へと分け入っても、まだその先が続く広大な宇宙のようなものでした。
昨今、私たちは進化したテクノロジーを通じて、辛い思いをせずに生きるのが得意になりました。知りたい情報も苦労せずに取得できますし、知性や想像力を特に駆使しなくても、なんとなく日々を過ごせる術を身につけています。そんな時世において、人間の特性である考えるという能力を損なわずに生きていくための、不可欠な栄養を与えてくれる図書館は、これからも守り抜いていかねばならない場所となるでしょう。 北海道の大自然と本は幼少期の私を支えてくれた礎であり、たくさん のご恩があります。「こども本の森札幌・北大」の名誉館長の就任は、 私にとってその恩返しであり、本に潜む生命力に満ちたエネルギーを多くの方達と分かち合うために、尽力させていただきたいと思っております。




「こども本の森札幌・北大」の
開館にあたって
2026年8月1日、「こども本の森札幌・北大」は、北海道大学の正門からほど近い、サクシュコトニ川のせせらぎと豊かな樹々に包まれた地に誕生しました。
建築家・安藤忠雄さんの「北の大地から羽ばたいていく大きな志や勇気が育まれるアカデミアに、こどもたちが想像力と創造力の翼を広げる図書館を」という願いが生んだ、札幌市で唯一、小・中学生をメインに据えた本の森です。
一歩足を踏み入れれば、天に向かって伸びる大きな木のような本棚。一冊を手に取って、窓の外に広がる緑を感じながらページをめくると、思わず時を忘れてしまいます 。ここでは、本の森の根元やほこらで自由に読んだり、気に入った一冊を持ってキャンパスに広がる緑の中へ出かけたりすることもできます。
入り口の「北海道で生きる」を皮切りに、物語や芸術、世界、そして未来の可能性へと14の大きなテーマに分かれた棚には、独自の視点で選び抜かれた、絵本から専門書までが垣根なく並び、いつでもあなたを待っています。
ぜひ、多くの方々にこの本の森を訪れていただき、本との時間を心ゆくまで過ごしていただけることを願っております 。